【20】
マデリーン・ラッチェンは、新興貴族の家に生まれた。
野心家の母は、娘のマデリーンに対して、徹底的にある教えを説いた。結婚する相手は、自分よりも位の高い貴族でなければならないと。それは、母親自身がそうやって成り上がってきたからに他ならなかった。
「いいこと?貴女は将来、私以上の美貌を備えるでしょう。その美しさは何よりも武器になります。言いたいことはわかりますわね?」
まだ恋も知らない少女の頃から、そうやってマデリーンは育てられた。母親はこうも付け加えた。
「くれぐれも、自分よりも身分の低い男性とは関わらないこと。恋や恋愛などはもってのほかです」
誰よりも厳しい母に、マデリーンは従うしかなかった。母の厳しさは、時に夫である父でさえも狼狽えることがあったほどだ。それでも母は絶対に曲げることはなかった。子どもをマデリーンひとりしか授からなかったこともあるだろう。一人娘のマデリーンは、そんな母親の操り人形のように生きるしか道はなかった。
ところが......。
マデリーンに不幸が訪れる。彼女は、平民の少年に恋をしてしまった。
九歳の時だ。相手は、街で偶然出会った雑貨屋の息子だった。器量が良く、器用で、子どもにしてはよく物を知っていた。何より、美しい少女のマデリーンに、彼はとても優しかった。彼女が関わってきた貴族にはない、素朴なあたたかさがあった。
「これ、マデリーンにあげる」ある日、少年はマデリーンに贈り物をしてきた。指輪だ。一生懸命、何日も何日も店の手伝いをして、売れ残りの物を親に頼んで譲ってもらったらしい。当然、安物だった。子どもと言えど貴族がするには憚かるレベルの、おもちゃみたないもの。しかし、マデリーンにはダイヤモンドよりも輝いて見えた。
「ありがとう。一生大事にするわ」
マデリーンは指輪をはめ、幸せいっぱいだった。サイズの合わない指輪の隙間は、愛する彼との時間で埋めていこうと思った。それが儚い夢だとも知らずに......。
「これは何ですか?」
指輪を母に見つけられてしまったのは、あれからすぐのことだった。すでに母は、少し前から娘の様子が違うことに気づいていた。おそらく初恋をしているのだろうと、そこまで気づいていた。ただ誤算だったのは、恋の相手が平民だったことだ。
「誰からもらったのかしら?」
「そ、それは自分で買ったのです」
「こんなガラクタ、まだ子供